糖尿病
1.糖尿病とは
糖尿病は、インスリンの作用部不足によって高血糖状態が持続する代謝疾患です。
2型糖尿病は膵β細胞からのインスリン分泌低下とインスリンの標的組織における作用障害(インスリン抵抗性)によってもたらされます。
その成因は遺伝因子に、過食、運動不足、肥満、ストレスなどの環境因子および加齢が加わり発症します。
1型糖尿病では、インスリンを合成、分泌する膵β細胞の破壊によって生じるインスリンの作用不足が原因です。
2.糖尿病の診断基準
「糖尿病型」の判定基準
- ①早朝空腹時血糖値126mg/dl以上
- ②75gmOGTTで2時間値200mg/dl以上
- ③随時血糖値200mg/dl以上
- ④HbA1c6.5%以上
- ⑤早朝空腹時110mg/dl未満
- ⑥75gOGTTで2時間値140mg/dl未満
①~③のいずれかの血糖値が確認された場合には、「糖尿病」判定。
④HbA1cが同一採血で糖尿病型を示せば、初回だけで糖尿病と診断。
⑤および⑥の血糖値が確認された場合には「正常型」と判定。
上記の「糖尿病型」「正常型」いずれも属さない場合は「境界型」と判定。
「境界型」は生活習慣を見直す必要があります。
3.血糖コントロールの指標と評価
指標 | コントロール評価とその範囲 | ||||
優 | 良 | 可 | 不可 | ||
HbA1C(国際基準)(%) | 6.2未満 | 6.2~6.9未満 | 不十分 | 不良 | |
6.9~7.4未満 | 7.4~8.4未満 | 8.4以上 | |||
6.9~8.4未満 |
4.糖尿病の治療
食事療法
食事療法のポイント
- 1.腹八分目とする
- 2.食品の種類をできるだけ多くする
- 3.脂肪は控えめに
- 4.食物繊維を多く含む野菜、海藻、きのこなどをとる
- 5.朝食、昼食、夕食を規則正しく
- 6.ゆっくりかんで食べる
バランスのとれた栄養配分
- 糖質(炭水化物)50~60%
- タンパク質 20~25%
- 脂肪 20~25%
体重コントロールの指標
- 標準体重(kg)=身長(m)×身長(m)×22
運動療法
適切な運動の効果
- ブドウ糖が筋肉内に入って血糖値を低下させます
- インスリン抵抗性を改善する効果
- 高血圧、脂質異常を改善します
負荷量
ウォーキングであれば、1回15分間~30分間、1日2回、歩行約1万歩、消費エネルギー160~240Kcal
注:運動で消費するエネルギーはそれほど多くありません。「運動で消費したエネルギー分だけ食事を増やせる」とするのは誤りです。運動の糖代謝に及ばす効果はインスリン感受性の改善が主です。食事で摂取したエネルギーを運動量を増やして消費するのは困難です。肥満傾向のある人は、極力食事を控え、減量を心がけることが大切です。食事を減らしても体重が減らないと言う人がいますが、食事を摂らないで体重が減らない人はいません。体重が減らない原因は、摂取するエネルギーと消費するエネルギーが同じだからです。更に食事を控えれば、必ず体重は減ります。
薬物療法
- スルホニル尿素薬
- αーグルコシダーゼ阻害薬
- ビグアナイド薬
- チアゾリジン薬
- DDP-4阻害薬
- SGL-2阻害薬
- インスリン療法
5.糖尿病の合併症
糖尿病は、長い間自覚症状がありません。そのため、放置してしまう人が多いのです。しかし、その間にも徐々に進行してゆき、合併症の症状が現れてくるころには相当に悪化しています。血液中にブドウ糖が異常に増えた状態が続くと、全身の血管壁が傷つけられます。その結果、さまざまな合併症がおこってきます。主な合併症には、細い血管が障害されて起こる糖尿病網膜症、糖尿病腎症、糖尿病神経障害があります。太い血管も障害されて動脈硬化が進むため、脳梗塞、心筋梗塞、閉塞性動脈硬化症なども起こりやすくなります。
糖尿病網膜症
糖尿病発症後5~7年目ごろに始まります。高血糖で、目の網膜の血管が障害されることが原因です。糖尿病網膜症で著しい視力低下や失明などの重い視力障害を起こしますが、適切な時期に治療を受ければ、これを防ぐ事は可能です。最初の段階は、自覚症状のない「単純網膜症」といい、毛細血管が破れて点状出血や硬い白斑ができます。血流障害によって軟らかい白斑が増加すると「増殖前網膜症」になります。さらに進行した「増殖網膜症」では、 血流の悪化を補うために新生血管ができます。新生血管は非常にもろく、破れて出血しやすく、硝子体に出血が及ぶと視力が低下して、網膜剥離を起こすと失明の危険もあります。
原則的には、眼科での定期健診が必要です。受診間隔は、
正常から単純網膜症の初期までは、1回/年
単純網膜症の中期以降は、1回/3~6カ月
増殖前網膜症以降は状態により1回/1~2カ月
が目安となります。
糖尿病腎症
腎症の発症時期は、糖尿病発症後7~15年ごろと、幅があります。腎症の最初の段階は、尿にわずかのたんぱくの一種(微量アルブミン)が漏れ出る「早期腎症期」ですが、自覚症状はありません。微量アルブミンは尿検査で調べることができます。「顕性腎症期」になると、たんぱく尿が出て脚にむくみが現れ、腎臓の血管が硬くなるため血圧が高くなります。腎機能の低下が進み、老廃物をろ過する能力が失われ、尿毒症を起こした状態が「腎不全期」です。更に腎症が進行した「透析期」では、人工透析が必要になります。
神経障害
一般的に、糖尿病発症後5年目ごろから起こります。その理由は、高血糖が続き血流障害が起こることで、末梢神経に栄養や酸素が十分届かなくなるからです。また、末梢神経そのものが高血糖で変性したり、脱落するためです。感覚神経が障害されると、足裏や足指のしびれ、灼熱感などの異常感覚が現れ、自立神経が障害されると便秘、下痢、発汗異常、立ちくらみ、排尿障害、勃起障害などが、運動神経が障害されると、筋力低下、筋委縮などが現れます。症状は、左右対称に現れることがほとんどです。さらに症状が進むと、下肢閉塞性動脈硬化症による血管閉塞が原因で、下肢潰瘍や壊疽になることもあります。最悪の場合は潰瘍や壊疽により、脚や足の指を切断しなければならない場合が出てきます。
これらの合併症を予防するには、血糖値を十分に下げることがたいせつです。血糖値をきちんと管理すれば進行を防ぐことができます。糖尿病の合併症を防ぐためには、HbA1cは、7.0未満を目標にします。HbA1cは、過去1~2カ月間の血糖値を反映するもので、血液検査を行って調べます。ただ、糖尿病の初期で血糖値がそれほど高くない場合は、6.0未満を目標にします。糖尿病腎症を早く発見するためには、微量アルブミン尿検査を受ける必要があります。糖尿病と診断されている場合は、少なくとも年1回、できれば半年に1回は微量アルブミン尿検査を受けることが必要です。また、糖尿病腎症の予防には、収縮期血圧は130mmHg未満、拡張期血圧は、80mmHg未満に保ちます。高血圧が持続すると、糸球体が傷つき、塩分や水分の排泄が低下し、血圧の上昇を招くという悪循環に陥ります。合併症の予防には、食事療法、運動療法によって標準体重を維持し、血糖値のコントロールを心がけることがとても大切です。